スペイン記 (2) ヴァーギルさんとの愉快な旅



スペイン記 (2)     -  ヴァーギルさんとの愉快な旅  -









ストライキでバスも電車も再開するのは6時。あと3時間ある。空港で昼飯食ったり画描いたりしながら3時間バスを待つかタクシー。
3時間バスを普通に待つのはコノせっかくのストライキというイベントを全く楽しめていないので却下。
だけどタクシー嫌いやねんな。1人で乗って普通に目的地について、それなりの料金支払わされて終わりやったら、つまらない。タクシー乗って、おっさんにボッタクリにあって「はぁ?」って言って口論するみたいな、それで逃げちゃう!みたいなプチハプニングでもあればおもろいけどな。おもろないか。
まぁとりあえずタクシーの列に並ぶか。早くサグラダに会いたいしな。

僕はタクシーの長蛇の列の一番後ろに並ぶ。
すぐに横にいた体格はガッチリしてるけど気弱そうなおっちゃんと目が合う。

「ストライキ大変だねえ。」
「そうですね。」
「一緒にタクシー、シェアする?」
「ああ、どこまで行くんですか?」
「バレンシアへ行くバスステーションまで」
「僕はサグラダファミリアに行きます。そことサグラダは近いっすか?」
(二人で路線図を見る。)
「ああ近い近い。歩いて10〜15分くらいかな。じゃあシェアしようか。」
「はい。」

僕としてはコノ普通にやさしそうなおじさんとシェアで良いのか?という疑問がふと湧いていた。思ってたより簡単にストライキを乗り越えてしまい物足りなかった。もっとこう、えげつないほど高圧的なエキゾチックおばさん5人組とか、自称ロッケンロール野郎おじさん5人組とかが理想やってんけどな。。。



< 内側のサグラダと鶏肉ソーセージ >



おじさんの名前はヴァーギルといった。ヴァーギルさんはアルメニア人で同じ飛行機に乗り合わせていた。彼の家族はスペイン南部バレンシアに住んでいて、おじさんは単身ロンドンで働いていると言った。この2週間はバレンシアで久々に家族と再会するそうだ。旅で知り合った全く知らない人を完全に信頼は出来ないが、疑いすぎるのも良くないし、まぁだまされるのも楽しいかなと思って、その場の流れに任せることにした。

タクシーに乗る。ヴァーギルさんはスペイン語でどこどこに行きたいというコトを運転手に伝える。僕は彼が先にサグラダに行くのかバスステーションに行くのかはよくわからなかったが、別にどうでもいいやと思った。

タクシーが大きな道に出た時、ヴァーギルさんが僕に「見ろ」という。それでなんや?って思ってみると遠くにサグラダファミリアがいた。それは Google Earth で異次元の世界をみるような、そこにない不自然なもののように見えた。

タクシーはバスステーションに着いた。そこで僕とヴァーギルさんは降りた。チケット売り場でストライキの状況と次のバスの時間を見る。バレンシアへのバスは6時に出る。おじさんがチケットを買ってる間、暇だったので近くにいた東南アジア系カップルと仲良くなってベラベラ喋ってたら、ヴァーギルさんが来て「あれ、連れおったんか?」みたいな感じで驚いてた。バス出発まであと2時間ある。ヴァーギルさんは時間があるからサグラダに一緒に行ってくれると言う。二人はカップルと別れて、まず腹ごしらえをすることにした。

どんなお店に行くんだろうか?ヴァーギルさんはスペインのイズミヤみたいなもん ( = スーパーマーケット)に入っていく。何を買うんだろうか?と思って後ろをついていくと、おじさんは袋詰めの鶏肉ソーセージ10本、フランスパン、ジュースを買った。
「鶏肉ソーセージは生で食えんの?」とちょっと不安になって聞いたら、
「いけるいける〜もちろんやがな」と笑うので僕も同じものを買った。

20分ほど歩いてサグラダに着く。ぱっと目の前にそびえ立つそれを見て、これか!と思った。サグラダファミリアは何年か前に画の題材にも使ったことがあり、TVでも地球をグルグル回る番組で何度も見てきた。サグラダを直に見た時の一番の感想は、頭の中にそびえ立っていたサグラダに実際に対面したという気持ちだった。造形物としての感動より先に、頭の中で描き続けてきた憧れを確認した、という感じだった。真っ青な空と太陽の光と影と緑とサグラダは僕の内側に確かに存在していた。






呆然と見ていると、ヴァーギルさんが公園の芝生に腰を下ろした。一緒に座って、ソーセージとパンを食べた。生の鶏肉ソーセージ大丈夫かしら?と思っていたけど普通に美味しかった。食べたあとに残る血の味は炭酸水で流し込んだ。

僕は腹が減っていたので無言でサグラダを見つめながら片手にフランスパン、片手にソーセージを持って機械的に食べていた。正直、僕は涙が出なかったことに驚いていた。たぶんそれは、もう僕の内側のサグラダが存在してしまっているからなんだと思った。

ヴァーギルさんも昔からサグラダを見てきたと言う。そして今なお創っている。100年以上もの間、1人の意志が受け継がれていることに、なんていう世界なんだと思う。

僕とヴァーギルさんは昼飯を食べ終えてサグラダの近くに行く。近づけば近づくほど、それは巨大な植物のように僕を見下ろした。中に入りたかったが僕が中に入るとヴァーギルさんとここで別れることになるので、中はまた明日か明後日にすればいいやと思った。現在5時10分。せっかくここに連れてきてもらったのでヴァーギルさんをバスステーションまで見送ろうと思った。


僕たちはもと来た道をたどる。途中でデモの列が道を横断していた。そうだ、今日はストライキなのか。

ヴァーギルさんは出発までまだ時間があるから海へ行こうと言った。バスステーションから海まで歩いて20分かかる。僕たちはバロセロナの海の方へと進みだした。




もう6時まであと10分、まだ海には着かない。結局、僕とヴァーギルさんは信号の前で別れることになった。彼は僕に「時間があったらバレンシアに来い。家族を紹介する。」と終始言ってくれていた。電話番号を交換して僕は交差点を渡った。

バレンシア、

全く行きたい候補にあがらなかった街だ。行こうと決めた。一週間後の予定が立った。予定表にバレンシアを書き加えた。









< バロセロナの海 >


歩いて15分、青が目の前に広がった。海の青、空の青、ヤシの木の影の青、そこには多様な青と光と小さな砂漠があった。人々は泳いだりビーチバレーで遊んでいた。海辺を歩いて、砂に腰を下ろして一日を振り返った。それから鞄を枕にしてぼーっと仰向けになって倒れて「良いところだなぁ」としみじみと思った。

住みたい、そう思える場所だった。老後はバロセロナやな。

7時、外はまだまだ明るい。今から宿に行くのも早いので海のスケッチをすることにした。高い石垣に座って、ふらふらと水彩絵の具をとりだして、のんきに画を描いた。






8時、外はまだまだ明るい。メシでも食いたいなぁ。とりあえず駅まで歩き出すか。僕はまずバスステーションに戻る。来たときは30分で来れた道のりを、ぶらぶらと公園を見つけたらちょっと中に入って遊んで、サッカーしてる子供達を見つけたらそれを見たりしてたら1時間くらい経っていた。ということは9時。それでも外はまだまだ明るく時間感覚がなくなるほどだった。

バスステーションに戻ってきて、ポリスメーンがいたので「(宿の最寄り駅の)この駅に行きたいんやけど?」って聞いたら親切にスペイン語で「カタルーニャ駅の6番線から一本で行けば終点がそこや。」と教えてもらう。「カタルーニャ駅どこ?」って聞くと指さしてくれたので「ぐらしやす〜」言うてカタルーニャ駅へと歩き出した。

少しずつ夜はやってきて、カタルーニャ駅に進むにつれて、ストライキのデモ集団の活動が目立つようになる。ポリスメーンが指差した方向にカタルーニャ駅があるとしたら、その方向から聞こえる爆発音とその方向から逃げてくる市民は何なのか。知らない間に夜は押し寄せていた。














コメント

  1. はじめまして。
    いつも楽しく読ませて頂いています。
    スペイン記の続き待ってました!
    林さんの文章からゆったりとした空気が伝わってきて、
    自分も一緒に旅をしているようで、とても気持ちがいいです。
    ヴァーギルさんとの2ショットいいですね。
    スペイン行ってみたくなりました。

    次も楽しみにしています。

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  2. 林さんがサグラダと初対面だなんて、驚きです。
    初めてでも既によく知った仲ですよね。

    バルセロナって本当に「抜けるように」明るいんだと
    写真を拝見して感動中です。(k.koga)

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  3. なんか、かっこええなああ(*^^*)

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